強度解析にて安全率を算出する

【樹脂の射出成形】強度解析にて安全率を算出する

強度解析にて安全率を算出する

 製品設計をする時、致命的な強度不足が存在すると、設計の修正まで後戻りしてしまいます。そういった、手間と費用を避けるため、CAEソフトを活用し、製品の強度解析を行います。方法としては、安全率を算出し、使用環境下(製品に掛かると想定される荷重)で強度的に問題がないか、コンピューター上で評価をします。

 そこで、安全率の算出の方法、2つのCAEソフトでの解析内容をご紹介し、そのあとで、製品の破壊試験から、CAEソフトの有効性に関して考察したいと思います。

 今回使用するCAEソフトは、ソリッドワークス(SimulationXpress)とFusion360です。

CAE

コンピューター支援設計(computer aided engineering)の略。コンピューター上で、設計を評価する作業のことであり、強度解析、流動解析等の目的に合ったツールを使用し評価します。

安全率

樹脂ペレット

安全率 = 降伏強度 ÷ ミーゼス応力

応力とひずみ

ミーゼス応力とは… 応力には垂直方向3成分とせん断方向3成分の計6成分が存在します。この6成分をある式で統合すると、1つの数値で応力を表すことができます。このことを発見したのが、リヒャルト・フォン・ミーゼスであり、名前をとってミーゼス応力と名づけられました。

降伏強度とは… 材料に荷重をかけていき、その荷重を取り除いたとき元に戻ることができる最大の応力のこと。

応力とは… 外力が加わったとき、物体の内部で発生する抵抗力。

ジンさん
ジンさん

 ミーゼス応力は、製品に外力を加えたときに発生する応力であり、降伏強度は材料の物性値です。この2つを比較すると、例えば、安全率1は、降伏強度=ミーゼス応力のときで、降伏値まで応力が掛っていて危険な状態。さらにミーゼス応力が高くなると、安全率が1を切り、外力を除去しても復元しなくなります。

 ソリッドワークスやFusion360で行う強度解析は、【静的試験】ですので、製品の使用環境次第ですが、少なくとも、安全率は、1よりも高くなるように設計します。また、製品の状態(ボイド、ウエルド)、経年劣化によっても強度が変化してしてしまうため、基準を設けるのは難しいところです。

◆静的試験とは… ゆっくりと力を加えていき、そのつど、ひずみや変形を測定する方法。

CAEソフトの特徴(強度解析)

ペレットと樹脂製品

ソリッドワークス

SimulationXpressを使用し、強度解析。操作性は良い。順番に従って、材料の選択や、荷重の大きさ等を指定する。欠点としては、マルチボディーに対応しておらず、アッセンブリした製品には向かない。単一ボディーに単一の材料のみ指定できる

Fusion360

操作性は良い。個人的には、ダイレクトモデリングがあるのでソリッドワークスより好み(※これはCADの操作性)。強度解析の操作性も良好。また、複数ボディーに複数の材料を指定することができる。

追記(2021.7.31)

ソリッドワークスは、製品によっては、複合ボディーの複数材料指定が可能。ただし、シミュレーション専用機能を導入していない場合は、やはり単一ボディーの単一材料のみ利用可能。
ソリッドワークス製品 機能&価格一覧表

ジンさん

 残念ならが、両方のソフトで、同じ材料、同じ物性値、その他条件も同じにしても、得られたミーゼス応力値に違いが出てしまいました。(材料物性である降伏強度は同じなため、安全率に差が出ています。)

 また、Fusion360で、材料物性を変更し、ソリッドワークスと同じミーゼス応力が得られないか、試したのですが、同じ結果を得ることができませんでした。

強度解析結果

解析

同条件でそれぞれのソフトで、あるサンプルの強度解析を行ったところ、

ソリッドワークス 1.0
Fusion360 0.6

 上記でも、記載しましたが、Fusion360で、材料物性を変更しても、ソリッドワークスと同じ応力値が得られませんでした。変更した物性値は、

  • ヤング率
  • ポアソン比
  • せん断弾性係数
  • 線膨張係数
  • 熱伝導率
  • 比熱

 わずかに、ミーゼス応力が変化したのが、ポアソン比を変化させたときのみでした。それでも、ソリッドワークスでの応力値と差異がありました。その他の5つの材料物性を変化させたときは、ミーゼス応力に変化がありませんでした。

 実際のサンプルに万能試験機で圧縮荷重をかけていくと、強度解析での指定荷重の1.05倍で破壊しました。そうすると、ソリッドワークスが算出した安全率1.0はかなり近い数値だったと言えると思います。(※注:こちらは、試験的に高い荷重で解析を行っているため、安全率1.0で実際に設計したわけではありません。)

ジンさん

 この結果を鵜呑みにされないようにお願いします。今回は、ソリッドワークスで実製品の耐久強度に近い、良い結果が出ていましたが、製品形状が変わったり、材料が変わっても、同様な結果になるとは限りません。

まとめ

 最後に、私のCAEソフトに対する考えをまとめると、CAEソフトを使った解析は、シミュレーションと製品の実際の物性とを比較し、データを集めることが大切です。CAEで解析すれば、精度よく設計に生かせるというものではなく、より良い解析精度を出すために、実際の製品のデータと、シミュレーションのデータを分析し、利用価値の高い解析データを見つけ、そこを活用していくことが大事だと思います。

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